「朝ドラって、もっと明るいものだと思ってた。」
そんな言葉が思わずこぼれてしまうほど、
『ばけばけ』には静かな“影”があります。
けれど、その暗さの中にある人の温度が、どこかあたたかい。
残酷で、でも笑えてしまう。
そんな不思議なバランスが、この作品の魅力だと感じました。
『ばけばけ』とは?——朝ドラ第113作目のあらすじ
『ばけばけ』は、NHKの連続テレビ小説第113作目として
2025年9月29日から放送が始まりました。
舞台は明治時代の島根・松江。
没落した士族の娘・松野トキが、
異国から来た英語教師・ヘブンと出会いながら、
変わりゆく時代を生きていく物語です。
モデルになっているのは、
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の妻・小泉セツ。
日本の「怪談」を愛した八雲の傍らで、
影に寄り添いながら生きた女性です。
主演は髙石あかりさん。
2892人の中から選ばれた彼女が演じるトキは、
儚くも強いまなざしで、明治の空気を生き抜いています。
ヘブン役は英国出身の俳優・トミー・バストウさん。
文化も言葉も異なる二人の出会いが、
“ばけばけ”という不思議な世界の扉を開きます。
主題歌はハンバート ハンバートの「笑ったり転んだり」。
そのタイトルの通り、
人生の不器用さとやさしさを包み込むような歌です。
「暗い」と言われる理由——“うらめしい”時代を生きるということ
『ばけばけ』のキャッチコピーは、
「この世はうらめしい。けど、すばらしい。」
この一文が、物語のすべてを物語っているように思います。
明治という時代は、進歩と喪失が同時に押し寄せた時代。
生まれた身分を失い、家族を守れず、
愛する人と引き裂かれることも珍しくありません。
トキが見つめる世界は、美しいけれど残酷です。
だからこそ、“暗さ”がリアルに胸に響くのだと思います。
光の反対にある闇ではなく、
光を際立たせるための“影”。
『ばけばけ』は、その影の濃さで
人の心の奥を描き出します。
こちらの記事もおすすめ
「笑える」瞬間——痛みの中に宿る、小さな救い
一方で、このドラマには
思わず笑ってしまう場面もたくさんあります。
トキとヘブンのぎこちない会話。
言葉の壁を超えて、少しずつ心が通っていくやりとり。
松江の人々の素朴な優しさや、
どこか抜けたやり取り。
それは派手な“笑い”ではなく、
まるで人生の中の「ふっと息をつく瞬間」のようです。
重い現実の中に、ささやかなユーモアを見つけていく——
それが『ばけばけ』の“笑える”ということなのだと思います。
「本当の親子」とは——血よりも深い、心のつながり
『ばけばけ』では、“家族”というテーマが何度も浮かび上がります。
血がつながっているからこそ生まれる葛藤もあれば、
血のつながりを越えて生まれる絆もある。
トキと母の関係。
ヘブンとトキの間に芽生える、親子のような情愛。
その形はどれも不完全で、時に残酷です。
けれど、“本当の親子”とは、
支え合う覚悟を持てるかどうか——
その静かな問いが、物語を貫いています。
観ているうちに、
わたしたち自身の「大切な誰か」を思い出してしまうのです。
まとめ|暗さの中にある、やさしい光
『ばけばけ』は、これまでの朝ドラとは少し違うトーンを持っています。
明るく励ます物語ではなく、
痛みや影を抱えた人のそばに寄り添う物語。
でも、その暗さの奥にあるのは、
人が人を想うあたたかさです。
「笑ったり転んだり」しながら、それでも前に進んでいく。
その不器用な歩みを、朝の光の中で見つめているような15分。
『ばけばけ』は、静かに生きるわたしたちの心に、
そっと灯りをともしてくれる朝ドラです。



コメント