その声が響いた瞬間、時間が止まった。
2025年、サンライズとスタジオカラーが手を組んだ新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX（ジークアクス）』。革新的な映像、複層的な脚本、そして痛みを伴うテーマが話題を呼んだこの作品の最終話で──一人の声優が、“声”という形で物語に帰還した。
古谷徹。
その名前は、もはや個人名というより“伝説”そのものだ。アムロ・レイ、ヤムチャ、タキシード仮面。時代を越え、ジャンルを越え、作品を超えて、あらゆる主人公たちに「魂の輪郭」を与えてきた声。その声が、いま再び“新しいガンダム”に宿ったのである。
しかも──最終話という、すべてが決着する場面で。
この記事では、「ジークアクス」という作品の構造と革新、そして最終話における古谷徹の起用がいかにして“語りの帰還”を果たしたのかを、感情と理性の両輪で追っていく。
その一言が、なぜこんなにも胸に刺さるのか。
なぜ、私たちは“声”を通じて物語を信じることができるのか。
あの夜、あなたが聞いた“あの声”の意味を、もう一度考えてみたい。
ジークアクスとは何か？──サンライズとスタジオカラーの挑戦
ジークアクス。それは「赤いガンダム」という記号に、新しい意味を与えた存在だった。
正式名称『機動戦士Gundam GQuuuuuuX（ジークアクス）』。発表当初は“赤い機体”というビジュアルイメージと、謎めいたタイトルの語感ばかりが話題を呼んだが、ふたを開けてみれば、その正体は“記憶の戦場”を巡る知的で、残酷で、そしてどこまでも優しい物語だった。
主人公・マチュは、消された集落の生き残り。AIによって人間の「記憶」と「意志」を統合した人格戦闘兵器〈ジークアクス〉と出会い、“クランバトル”と呼ばれる多国籍組織同士の戦いに巻き込まれていく。
ここで注目すべきは、制作陣の布陣である。
サンライズが誇るメカ演出陣──その中でも近年『水星の魔女』で頭角を現した柴倉光が監督を務め、映像制作はスタジオカラーが全面的に参加。色彩設計とコンポジットにエヴァ的な“濁り”が走り、サンライズの線の硬質さとカラーの光の柔らかさが、思考と感情の対立を象徴するように共存していた。
キャラクター原案は米山舞、音楽は牛尾憲輔。すべてが、これまでのガンダムシリーズの“正当性”から半歩ずらした布陣だった。
だが、“違う”からこそ伝わるものがあった。
『ジークアクス』は、従来の「モビルスーツバトル」による勝敗ではなく、“記憶”や“声”といった非物質的な要素が戦局を左右する構造を採っている。敵の発言ログ、亡き人の願い、かつての兵士の声──それらがAIによって解析・合成され、戦術に転用される世界。
つまり本作は、初めから「声」が物語を駆動する核にあった。
戦争を描きながら、“言葉”が人を救う瞬間があること。
その可能性を信じてしまう余白こそが、ジークアクス最大の美しさだったのだ。
エンディミオン・ユニットの衝撃──古谷徹が語る“声”の帰還
それは、本当に、突然だった。
第13話。マチュたちの戦いが最終局面に達したそのとき、作中に突如として現れる新たな戦術支援AI──〈エンディミオン・ユニット〉。
モニターの隅、光の収束。音楽が消え、わずかに低域が強調された無音の空間。そのとき、静かに──そして確かに、“あの声”が響いた。
「希望は、まだ残されている──お前の中に。」
数秒の沈黙のあと、SNSが爆発した。
「今の声……まさか古谷徹！？」「鳥肌止まらない……」「まさかこのタイミングで来るなんて」──“古谷徹”が一瞬にしてトレンド入りを果たし、ジークアクスの最終話は、その夜ネットを占拠した。
このキャスティングには、一切の告知がなかった。事前の情報もなく、クレジットも伏せられた状態で、まるで作品自体が視聴者に「感じ取れ」と問いかけてくるような、そんな演出だった。
そして何より、この声が物語にもたらす“意味”が深い。
エンディミオン・ユニットは、過去の戦死者の記録、断片的な人格ログ、消失した兵士の声──それらを集積・合成して構築された“集合意識型のAI”である。
つまり、彼が語る一言ひとことは、ひとつのキャラクターのセリフではない。
過去を生き、死に、願い、諦めた者たちの“声の集合体”なのだ。
その“声”を、古谷徹が担った。
これは決して偶然ではない。
彼は、ガンダムという作品が生まれたその瞬間に、アムロ・レイとして“戦い”を始めた声だ。
そして今また、ガンダムが「記憶と継承」をテーマに掲げる作品の最終局面において、“記憶された声”として立ち現れた。
演者としての意味と、物語としての意味が、ここで重なり合った。
それは、過去の物語に敬意を払いながらも、決して戻ることはなく──
未来に向かって語りかける“新たな語り”だった。
古谷徹の声優史とジークアクスの交差点
古谷徹──その名前を聞いて、真っ先に浮かぶのは、やはりアムロ・レイだ。
1979年、『機動戦士ガンダム』が放送されたとき、アニメの“演技”は、まだ記号の記憶に近かった。だが、その中で古谷は明らかに異質だった。
叫び、泣き、怯え、そして、戦った。
彼の演じるアムロには「人間の未完成さ」が刻まれていた。だからこそリアルだったし、だからこそ視聴者はそこに“自分”を重ねることができた。
その後も、『ドラゴンボール』のヤムチャ、『セーラームーン』のタキシード仮面、『名探偵コナン』の安室透と、時代ごとの“象徴”を演じ続け、気がつけば、古谷徹は「アニメという文化そのものの語り部」になっていた。
だが──その声に、深い影が差した。
2024年春、報道された不倫・暴力・中絶強要というスキャンダルは、あまりにも重かった。長年築いてきた信頼と尊敬を、一瞬で崩すに足る事実だった。
多くのファンが傷つき、怒り、そして、沈黙した。
『名探偵コナン』『ワンピース』といった看板作品からの降板。ラジオ・イベント・テレビからも姿を消し、「声を失った男」になった。
だが──だからこそ、あのジークアクス最終話での起用には、震えるほどの意味があった。
これは、ただのキャスティングではない。
“赦し”でもなければ、“復活”という言葉ひとつで語れるものでもない。
むしろ、あの場面に必要だったのは、“過ちを抱えながらも語ることを諦めない声”だったのだ。
エンディミオン・ユニットという役は、過去に失われた声たちがひとつに束ねられ、未来に言葉を残す存在だった。
それは、かつて声を失いかけた者の語り直しに、これ以上ないほどふさわしかった。
語り手は、完璧である必要はない。
むしろ、痛みと矛盾を抱えているからこそ、語る価値がある。
ジークアクスという物語は、それを“声”というメディアで、証明してみせたのだ。
ジークアクスが照らす未来──声優と物語の新たな関係
最終話の古谷徹起用が示したもの──それは、私たちが“声”というメディアにどこまで物語を託すことができるのか、という問いだった。
一方で倫理、一方で演技。
声優という職業は、いまやただの“声を当てる人”ではなく、作品の世界観そのものを背負い、語り、観客と感情を共有する“顔なき俳優”だ。その人物がスキャンダルを抱えたとき、果たして声とキャラクターの“結びつき”を、私たちはどこまで許容できるのか。
ジークアクスは、その難問にひとつの解を示した。
それは、「過去を完全に清算することはできない」という現実を受け止めつつ、
“それでも物語は語られ続けるべきだ”という、静かな意志だった。
なぜなら、ジークアクスの物語そのものが「記憶の継承」「声の重なり合い」をテーマにしていたからだ。
エンディミオン・ユニットが象徴するのは、過去に語られ、記録され、消えていった声たち──それは“役”でもあり、“演者”そのものでもある。
古谷徹という人間が過去に演じてきた数々の声、それはキャラクターを越え、時代を越え、人々の中に蓄積されてきた“声の記憶”だ。
そしてジークアクスは、それらが消えることなく、再構築され、未来に向かって再び響く可能性を描いた。
もちろん、すべてを肯定するわけではない。
罪は罪として、記録されるべきだ。だが、その上でなお語られるべき物語がある。
それは、“人間の弱さ”を知る者だからこそ語れる物語であり、
“痛みを抱えた声”だからこそ届く祈りでもある。
そしてその祈りを、私たちはジークアクスという物語を通じて、確かに聞いた。
まとめ：その声は、まだ戦っている──古谷徹とジークアクスが描いた希望の残響
最終話のあの瞬間──静けさの中に響いた古谷徹の声は、
単なるノスタルジーでも、話題性でもなかった。
それは、「過去を記録しながら、なお未来を語る」ための声だった。
スキャンダルという現実、物語の役割、ファンの想い──そのすべてが交差する中で、ジークアクスという作品は、声優という存在を“赦す”のではなく、“再び語らせる”ことを選んだ。
そして、その選択は、あまりにも切実で、静かで、美しかった。
私たちは、声に惹かれる。
それは、目に見えない感情がそこにあるからだ。
その感情が語られたとき、人ははじめて「記憶」になる。
ジークアクスは、そう語っていたのだと思う。
だから、あなたに問いたい。
──あの声を聞いたとき、あなたの中に残った言葉は、なんでしたか？
それはきっと、あなた自身が次に語るべき、物語のはじまりなのだ。
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