ドラマ『良いこと悪いこと』のエンディングに流れる「アゲハ蝶」。
あのイントロを聴いた瞬間、どこか懐かしくて、それでいて胸の奥が静かにざわめきます。
まるで、忘れていた“何か”をそっと呼び起こされるような感覚でした。
2001年に生まれたあの楽曲が、令和の今、ドラマの主題歌として再び選ばれたこと。
それは懐かしさだけではなく、「過去と現在をつなぐ物語」にふさわしいテーマ性があるからだと感じます。
『良いこと悪いこと』基本情報|“同級生ミステリー”が描く時間のゆらぎ
物語は、小学校の同級生たちが大人になって再会する同窓会から始まります。
かつて「キング」と呼ばれた存在。
名前すら埋もれてしまっていた「どの子」。
目立っていた子も、空気のようだった子も、それぞれの時間を抱えて集まってくる。
タイムカプセルから見つかるのは、顔が塗りつぶされた卒業アルバム。
その不穏な印が合図のように、同級生たちの周囲で“良いこととも悪いこととも言い切れない出来事”が動き出します。
日本テレビ系2025年10月期・土曜よる9時枠。
主演は間宮祥太朗さんと新木優子さん。
主題歌はポルノグラフィティ「アゲハ蝶」。
平成の記憶をまとったこの曲が、考察ミステリーとしての物語を彩ります。
(公式発表より)
なぜ「アゲハ蝶」なのか|タイトルと響き合う二つの問い
『良いこと良いこと』というタイトルには、どこか“子どもの頃の道徳”の匂いがあります。
「いい子でいなきゃ」「悪いことはしてはいけない」。
でも、大人になったわたしたちは知っています。
現実はその二択では語れないことだらけだということを。
誰かを守るためについた嘘。
言えなかった本音。
関わらなかったことへの後悔。
それは「良い」「悪い」と簡単に裁ききれない感情のかたまりです。
そんな曖昧さを抱えた人物たちの物語に、「アゲハ蝶」は重なります。
蝶は、地面を這う存在から、殻にこもり、やがて大きく姿を変えて飛び立つ生き物。
過去を引き受けながら、別の場所へと向かう存在の象徴でもあります。
『良いこと悪いこと』の世界で揺れる彼らの姿は、
“ただ裁かれる側”でも“完全な加害者・被害者”でもなく、
「どう生き直すか」を探す途中のアゲハ蝶のようにも見えてきます。
歌詞に込められたイメージ|居場所を探しながら飛び続ける誰か
ここでは、歌詞そのものを引用せず、
「アゲハ蝶」という曲が持っているイメージだけをそっとすくい上げてみます。
- 世界のどこにも完全には馴染めないような、少し浮いた視点。
- 旅を続けること、生きることを重ね合わせるようなフレーズ。
- 地上の存在でありながら、どこか“天使”や“異邦人”のように描かれる孤独。
- それでも飛ぶことをやめない、静かな強さ。
この「居場所のなさ」と「それでも前へ進む意志」は、
『良いこと悪いこと』の登場人物たちにも通じています。
子どもの頃についたレッテル。
あの日の選択。
後悔や罪悪感を抱えたまま、どうにか日常を続けてきた人たち。
「アゲハ蝶」は、そんな人たちの心情と重なる歌として、
“あなたの過去も物語の一部だよ”とささやいてくれるように響きます。
ドラマと主題歌のリンク考察|「赦し」と「再生」をつなぐ旋律
『良いこと悪いこと』は、誰かの“正しさ”を描く物語ではありません。
それぞれの心にある小さな後悔、言えなかった一言、
あの日の沈黙――そんな断片を拾い集めて、ひとつの真実に向かっていきます。
「アゲハ蝶」が流れるのは、事件の謎が深まるタイミングだけではなく、
登場人物たちが“自分の心を見つめ直す瞬間”でもあります。
たとえば、かつての仲間を思い出す場面や、
誰かの弱さを知ってしまう場面。
そのたびに、曲の旋律が静かに寄り添うのです。
この構成はとても象徴的だと思います。
罪を暴く物語のように見えて、
実は人を赦す物語として描かれている。
そして、その“赦し”の象徴が「アゲハ蝶」なのだと感じます。
羽ばたくように響くギターの音は、
彼らの過去を断ち切る音ではなく、
静かに抱きしめるような響き。
音楽が、物語の中で“もう一度、生き直す勇気”を灯しています。
「良いこと」「悪いこと」を分けないというメッセージ
タイトルに込められた「良い」「悪い」という言葉は、
一見、道徳的な二元論を思わせます。
でも、このドラマが描いているのは、もっと曖昧で、もっと人間的な世界。
誰かを想うがゆえの行動が、別の誰かを傷つけてしまう。
あのときの一言が、取り返しのつかない結果を生む。
それでも、わたしたちは日々の中で、
「良いことをしたい」と願いながら、「悪いこともしてしまう」存在です。
『良いこと悪いこと』は、その矛盾を否定しません。
むしろ、矛盾を抱えたままでも生きていけるということを示してくれます。
それは、「アゲハ蝶」が持つ“どこにも属せないまま、それでも飛ぶ”という姿と重なります。
過去を完全に清算することはできない。
けれど、過去を抱えたままでも、美しく飛べる――。
このドラマと曲が重なる場所には、そんなやさしい希望があるように思います。
まとめ|夜の終わりに残る静かな余韻
『良いこと悪いこと』と「アゲハ蝶」。
どちらも“白と黒のあいだ”を描く物語です。
アゲハ蝶は、地上にいながら空を目指す存在。
彼らもまた、過去に縛られながら、それでも前へ進もうとしています。
ドラマのラストでこの曲が流れるたび、
視聴者の胸の中にも、小さな羽ばたきが生まれるのではないでしょうか。
良いことも、悪いことも。
それを混ぜたまま生きることを、恥じなくていい。
むしろ、その混ざりの中にこそ、“人の強さ”や“やさしさ”が宿る。
そんなメッセージを感じながら、
エンディングに流れる「アゲハ蝶」の余韻を、
今日も静かに聴いていたいと思います。



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