「嫌い」と感じた心を否定しないで
『僕のヒーローアカデミア』を読んでいて、
爆轟（爆豪勝己）というキャラにどうしても苦手意識を持ってしまう――。
そんな声を、ネットのあちこちで見かけます。
「過去のいじめの印象が強くて、素直に応援できない」
「デクにひどいことを言っていたのに、どうして人気なの？」
心の奥で引っかかるその“許せなさ”は、きっとあなたが優しい証拠です。
爆轟は、「ヒーローである前に、人間としてどう生きるか」を描くための存在。
だからこそ、彼の“影”の部分――怒りや攻撃性、後悔――が、私たちの心を強く刺激します。
この記事では、「嫌い」「許せない」と感じた気持ちを否定せず、
その奥にある「心が震えた理由」を一緒に見つけていきたいと思います。
爆轟が嫌われる理由──“いじめ”と“トラウマ”が残した影
爆轟が嫌われる理由のひとつに、幼少期のいじめ描写があります。
デク（緑谷出久）を「無個性のくせに」と見下し、挑発し、突き放す――。
その冷たい言葉や態度は、多くの視聴者に“痛み”として残りました。
彼の言葉は暴力的で、時に残酷でした。
「いじめ」を経験した人や、それを見て苦しかった人にとって、
爆轟の存在は“過去の痛み”を呼び起こす存在でもあります。
一方で、物語の中では少しずつ明かされていく彼自身の過去――
「自分の強さに縋り、弱さを見せられなかった少年」としての姿があります。
爆轟は「勝つこと」だけを信じて生きてきたけれど、
その根には「負けたくない」「誰かに追い抜かれるのが怖い」という恐れがあった。
その恐れが“いじめ”という形で外に向かった。
だからこそ、彼の行動には、痛みと未熟さの両方が重なって見えるのです。
「嫌い」と感じるのは、あなたがその痛みをまっすぐ受け止めた証。
爆轟というキャラが、ただの“嫌なやつ”ではなく、
「誰かを傷つけてしまう怖さ」そのものを体現した存在だからこそ、心に刺さるのかもしれません。
爆轟とデク──“謝罪”に込められた言葉と過去は消えない痛み
爆轟勝己と緑谷出久（デク）。
ふたりの関係は、『ヒロアカ』の中でも最も複雑で、最も人間らしい絆です。
かつて、爆轟はデクを見下し、突き放し、心を傷つけました。
デクにとってそれは「尊敬する幼なじみに拒絶された痛み」。
そして爆轟にとっては「誰かに負けるかもしれない恐怖」でした。
長いあいだ交わらなかったふたりの心が、やっと少しだけ触れ合ったのが、
爆轟がデクに頭を下げて謝ったシーンです。
「俺が、弱ぇくせに、勝手に見下してた」
その言葉には、ただの“謝罪”ではなく、
自分の中にある過去のすべてを受け止める決意が込められていました。
爆轟の“謝る”という行動は、ファンの間でも大きな反響を呼びました。
SNSでは「やっと謝った」「この瞬間をずっと待ってた」という声と同時に、
「それでも過去は消えない」「デクの痛みがなくなるわけじゃない」という声もありました。
そのどちらも正しいのだと思います。
謝罪とは、相手を完全に癒すための魔法ではなく、
「もう二度と同じことをしない」と心に誓うための行為だから。
爆轟の「謝罪」は、彼の成長の証であると同時に、
“過去は消えない”という事実を静かに突きつける場面でもありました。
このシーンの美しさは、許しではなく「痛みを共有すること」。
デクも爆轟も、それぞれの弱さと向き合いながら、
やっと“対等”という場所に立てたのかもしれません。
だからこそ、多くの視聴者の心が震えたのだと思います。
それは「嫌いだったキャラが謝ったから」ではなく、
「謝るほどに、自分の弱さを受け入れた姿」に人としての希望を見たから。
爆轟がなぜ人気なのか──“嫌われ者”から“共感される存在”へ
「嫌われていたはずのキャラが、気づけば一番人気になっている」。
『ヒロアカ』の爆轟勝己は、まさにそんな稀有な存在です。
人気投票では毎回上位。ときに主人公・デクを上回るほどの支持を集めています。
でも、初登場時の彼を思い出すと、「なぜ人気なの？」と感じる人も多いでしょう。
その理由は、単なる“かっこよさ”や“強さ”ではなく、
「弱さを認め、変わろうとする姿」にあります。
爆轟は、ヒーローの中でも特に感情の起伏が激しく、
自分の思い通りにならない現実に何度も打ちのめされてきました。
彼は天才ではありますが、「勝つこと」に縛られ続けた少年でもあります。
そんな彼がデクとの関係を通して、
「勝つため」ではなく「誰かを守るため」に力を使うようになっていく。
その変化の過程こそが、彼の人気の核心なのです。
ファンの多くは、爆轟の“完璧ではないヒーロー像”に自分を重ねます。
怒りや焦り、嫉妬や後悔――それらを抱えたまま、それでも前を向こうとする姿。
「不器用だけど、真っ直ぐに生きようとする人間味」が、共感を呼んでいるのだと思います。
作者の堀越耕平さんも、「爆轟は嫌われると思っていた」と語っています。
しかし、予想に反して彼は圧倒的人気キャラになった。
それは、読者が「過去の過ちを背負いながらも変わろうとする姿」に、
“救われた”と感じたからではないでしょうか。
嫌われ者だった彼が、いつしか“共感の象徴”になった理由。
それはきっと、彼がヒーローの中でいちばん「人間らしかった」から。
完璧ではないからこそ、私たちは爆轟に心を重ね、
“嫌いだったはずのキャラ”の中に、小さな光を見つけてしまうのです。
爆轟の成長と覚醒──「勝つため」から「守るため」へ
爆轟勝己の物語は、
まるで「自分自身との戦い」を見ているようです。
彼の行動原理は、いつも「勝つ」ことにありました。
誰にも負けたくない。
それは他人への攻撃心というより、
「自分が認められないこと」への恐れから生まれた執念でした。
けれど、ヒーロー科での戦い、仲間との共闘、
そして何よりデクとの関係を通じて、彼の中の“勝つ理由”が変わっていきます。
「誰かを守るために勝ちたい」という想いに、静かに形を変えていくのです。
彼が“覚醒”したとき――
その表情には、これまでのような怒りや焦燥ではなく、
仲間を信じ、自分を信じる強さが宿っていました。
あの瞬間、爆轟は初めて「ヒーローとしての自分」を選んだのだと思います。
その成長の影には、彼自身のトラウマもありました。
幼いころから「天才」と呼ばれ、常に上を目指すことを求められた彼は、
「弱さを見せる＝負け」と思い込んでしまった。
その結果、他人を遠ざけ、自分を追い詰めていったのです。
だからこそ、彼が「俺が悪かった」と謝れたこと、
誰かのために体を張れるようになったことは、
彼自身がそのトラウマを超えた証でもあります。
ヒーローの象徴であるエンデヴァーが「過去は消えない」と語ったように、
爆轟の過去も消えることはありません。
けれど、彼はその過去を抱えたまま、前へ進む道を選びました。
それが、爆轟勝己というキャラクターの最大の成長であり、
多くのファンが“心を震わせた理由”なのだと思います。
彼はもう、「勝つため」に爆発しているわけではない。
「守るため」に戦っている。
その変化こそが、少年からヒーローへ――
そして“嫌われ者”から“誰かの光”へと変わっていった、爆轟の真の覚醒なのです。
「嫌い」から始まる理解──あなたの中にある“痛み”も肯定していい
「爆轟がどうしても好きになれない」
「いじめの描写が頭に残って、許せない気持ちがある」
そう感じるのは、とても自然なことです。
物語を見て、誰かを嫌いになることは、悪いことではありません。
それは、作品の中の“痛み”をまっすぐに受け取った証だからです。
爆轟が嫌われる理由の多くは、
彼の過去の言動が人の心に“リアル”だったから。
傷つけられた側の痛みを、観ている私たちも感じ取ってしまう。
だからこそ、心がざわつくのです。
でも、少しだけ立ち止まって考えてみると、
その「許せない」という気持ちの中には、
「本当はわかってほしい」「変わってほしい」という願いも含まれている気がします。
人は、自分を傷つけた誰かが「変わろう」としている姿に、
戸惑いながらも、どこかで救われてしまうことがあります。
それは許すこととは違って、
“痛みを抱えたまま、それでも他人の成長を見つめる”という選択。
爆轟を「嫌い」と感じるあなたが、
その感情を抱えたまま作品を見続けていること自体が、
すでにひとつの「理解の形」だと思います。
嫌いなままでいい。
無理に推さなくていい。
でも、もし心のどこかで「なぜ彼が人気なのか」を考えてしまうのなら、
あなたの中にも、彼の変化に触れて動いた“何か”があるのだと思います。
それはきっと、あなた自身の中にある“痛み”や“過去”が、
爆轟の中の弱さと少しだけ重なったから。
作品の中で感じた違和感やざらつきも、
大切にしていい感情なのです。
「嫌い」と感じたその瞬間こそ、
あなたが作品と真剣に向き合っていた証拠。
そして、その感情を経て見える“理解”の灯りは、
静かにあなたの心を照らしてくれるはずです。
まとめ：過去は消えない。それでも、光を選ぶ物語
爆轟勝己というキャラクターは、
ただの“熱血キャラ”でも“天才”でもありません。
彼は、「過去を抱えたまま、どう生きるか」を問い続ける存在です。
デクを傷つけた過去も、いじめの記憶も、彼の中から消えることはありません。
けれど、その“消えない過去”を背負いながら、彼は何度も立ち上がってきました。
その姿が、多くの人の心を震わせてきたのだと思います。
人気投票で一位を取り続ける理由も、
単に強くて派手だからではなく、
「弱さを持ちながらも、光を選ぶ強さ」があるから。
爆轟を「嫌い」と感じる人も、
「許せない」と思った人も、
その気持ちは決して間違っていません。
それは、物語を真剣に見つめた証です。
『ヒロアカ』という作品が教えてくれるのは、
「過去は消えないけれど、未来は選べる」ということ。
そして、その“選ぶ力”こそがヒーローの本質なのだと思います。
爆轟はもう、かつての“嫌なやつ”ではありません。
それでも彼の中にある影は、完全に消えることもない。
だからこそ、その光は本物なのです。
あなたが感じた「嫌い」という感情も、
いつか“理解”や“共感”という形に変わる日が来るかもしれません。
そしてそのとき、あなたの中にも小さな光が灯っているはずです。
夜のように静かな痛みを抱えたままでも、
それでも光を選び続ける物語。
爆轟勝己というキャラクターは、
その姿で私たちに「生きること」の意味を見せてくれているのかもしれません。
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